高校キャンパスに、中等部の生徒が紛れていた
テストの結果一覧の前で、小さな背を目いっぱいのばして、
生徒の名前を目で追っていた

何だろう、って思いながらも、素通りしようとした

空きクラスや屋上を利用してクラブを運営してる生徒もいるし、
まあそのうちの一人だろう

そう思った



通り過ぎて2～3歩歩いたところで、呼び止められた
その声に、何故だか、懐かしさを憶えた
嫌な予感がした


突然すいません
そういって、中等部の生徒は一覧表を指さして言った

この、櫓木って人を知りませんか
ここのキャンパスにいると思うんですけど……



嫌な予感は当たった
多分、きっと、この子は

何度も見て、何度も魘された、あの夢
薄々気づいてはいた、あの夢


知らない、と嘘をつくことだってできた
むしろ普段なら、さらっと言って逃げてきたかもしれない
でも、この子には、それをしたらいけないと思った

何故だかは、わからないけど







櫓木は、僕ですけど


そう告げると
女の子は目を見開いて、突然、泣き始めた


ああ、やっぱり　と思った

阿佐ヶ谷の一件

ノーライフキングの連中が仕組み、あの惨劇を起こしたと聞いた
救助した少女の母親は最期に自我を取り戻したものの、人に戻ることはなくデモノイドの体のまま、朽ちた
デモノイドを、敵を灼滅してくれ、という依頼自体は成功

ただ結果的に、あの少女から母親を奪ってしまった

母親に、少女を傷つけさせないですんだ
子を殺してしまう危険性を、苦しみを、取り除いてあげられた
ただ結果的に、あの子の母親は、この世からいなくなってしまった
あれしか手立てがなかった

正しかったか、間違っていたか、と問われたら、僕はきっと答えられない




あの一件以来、あの夢をより鮮明に見るようになった
もしかして、という思考が頭の中を侵食する

確かめるのが　認めるのが　少し怖い